優秀な人材がやめない仕組み「リテンションマネジメント」とは

「今後を期待した人材がなぜか辞めてしまう」

優秀な人材を定着させる難しさに頭を抱えている経営者や人事担当者は少なくありません。

しかしポイントを押さえた対策を講じることさえできれば、優秀な人材の流出は防止できます。その対策がリテンションマネジメントです。リテンションマネジメントは人材を定着させ活躍を促す人事手法であり、優秀な人材の離職させない施策として注目を集めています。

優秀な人材の離職を防ぎ企業の発展を支える、リテンションマネジメントを自社に応用する方法について具体的にみていきます。

今こそリテンションマネジメントが求められている

リテンションマネジメントとはすでに業績に貢献している、もしくは今後の貢献が期待できる人材が長期にわたって組織の一員であり続け、かつ企業の発展に貢献する仕組み全般を意味します。リテンションマネジメントは、単一の人事施策の実施では実現不可能です。いくつもの事業施策を複合的に組み合わせて実現します。

なぜ優秀な人材は辞めるのか

一企業で将来を期待されるほど優秀な人材が離職する理由。それは行動経済学の「プロスペクト理論」と、アメリカの臨床心理学者、フレデリック・ハーズバーグが提唱した「ハーズバーグの二要因理論」で説明できます。

プロスペクト理論   

損失回避の思考
人間は意思決定において、利益よりも損失の回避を重要視するという考え方。

ハーズバーグの二要因理論

仕事における満足度では「満足」に関わる要因(動機付け要因)と「不満足」に関わる要因(衛生要因)は別であるという考え方。

まずハーズバーグの二要因理論に照らし合わせて考えてみましょう。企業内で将来を期待され評価を得ても、不満足に感じる要因と相殺されることはありません。また優秀な人材ほど企業に対して求める内容のレベルも高い傾向があり、それに比例して不満足による心理的苦痛の度合いも高まります

高まった不満は、プロスペクト理論で言う損失回避の本能を駆り立てます。
「この企業にとどまることは自分にとって苦痛であり損失だ」と強く感じた結果、退職を決断するに至るのです。そしてその原因の多くは、企業の体質に潜んでいます。

優秀な人材を襲う3つの苦痛

優秀な人材に退職を決意させるほどの不満足を感じさせる要因を、日本最大級の総合求人・転職支援サービス「エン転職」が2019年に10,074名の対して行ったアンケート結果から抽出した結果、主にこの3つであることがわかっています。
(参考:1万人が回答!「退職のきっかけ」実態調査。(エン•ジャパン)

・やりがいや達成感が感じられない

・待遇に不満がある

・企業の将来性に心配がある

やりがいや達成感が感じられない

優秀な人材は主体的にキャリアを構築できる土壌が与えられない場合、自ら開拓するために退職を決意します。

優秀な人材はアイディアの宝庫です。しかしそのアイディアや提案も、上司の了承を得なければ実行できず、上司に提案すれば跳ね除けられる。これでは不満が募ります。

優秀な人材は向上心があります。常に刺激を感じながら、自分の能力を遺憾無く発揮して挑戦できる。また挑戦することをよしとする土壌が必要です。

待遇に不満がある

待遇はすなわち自身に対する企業の評価です。優秀な人材は、自身の能力に対する正当な評価を強く望みます。

ポストがなく出世できない。給与制度の整備が不十分なため能力が加味されない。こういった不満は企業に対する不信感に変わり、ひいては退職を決意させる大きな要因です。

優秀な人材の流出を防ぎたいと考えた場合、人事制度の見直しは最重要課題と言えるでしょう。

企業の将来性に心配がある

優秀な人材は、常に目標を定めて邁進します。しかし企業の目指す方向性が見えない、共感できない場合、この企業にいても自身の成長につながらないと感じるでしょう。そうなれば日々の業務はただのルーティーンワークとなり、不満足度は高まります。

優秀な人材が共感でき、企業の一員として参加することに意義を感じられるような、明確で斬新なビジョンを示す姿勢。これこそが企業に求められています。

承認欲求が満たされないことこそが退職要因

先のエン・ジャパンの調査では、2017年から2019年の3ヵ年に渡った退職を考えた理由の推移を追っています。

この数年で、仕事のやりがいや達成感を求める傾向が高まっていることがこのデータからも読み解けます。適切に評価されない不満や認められない不安が、退職という大きな決断に人材を駆り立てているのです。

承認欲求が満たされないことによる苦痛が退職を決意する大きな理由という事実は、人事施策を考える上で無視できない要素といえます。

リテンションマネジメントの具体的な始め方

優秀な人材の流出を防ぐリテンションマネジメントを実現することは、企業自体の体質を魅力的に変革させることでもあります。

どのようにリテンションマネジメントを進めるのか、具体的にみていきます。

人事担当者がすべきこと

まず人事制度の課題をピックアップします。人事制度においてよくある課題を3つの観点に分け、それぞれの具体的な対応内容を以下にまとめました。

課題課題ごとの詳細な項目具体的な対策例
労働条件・賃金・賃金水準の見直しと明確化
・勤務時間・労働時間の見直し
・営業時間の見直し
・休日、休暇・シフト管理の改善
・有給休暇の取得を促進
職場環境・業務の負担・人員配置の見直し
・IoTの導入
・職場の風土・産業医面談の実施
・従業員間のコミニケーション改善策の導入
人事制度・雇用管理・募集、採用方法の見直し
・教育訓練・教育訓練体系の見直し
・評価システム・評価システムの見直し ・キャリアパスプランの整備

さらに厚生労働省が推奨するストレスチェック項目は、社内の課題を把握する際の手引きになるでしょう。

経営者や役員、管理職がすべきこと

リテンションマネジメントの要は経営者、そして管理職が握っています。なぜでしょうか。昨今の人材の心理的傾向をひもときながら、具体的に何をすべきなのかを考えてみます。

従業員エンゲージメントが高まれば優秀な人材は辞めない

従業員エンゲージメントとは従業員と企業が価値観を共有し、企業の成長に貢献することに対する従業員の意欲と満足の度合いを示すものです。

会社の一員であることに誇りを感じている人材は辞めません。経営者のリーダーシップに満足し、組織の一員として貢献することに価値を見出せる、かつそれが正当に評価されていると感じれば、優秀な人材は辞めないのです。

これはアメリカシリコンバレーを拠点とし、世界最大級のビジネス特化型ソーシャル・ネットワーキング・サービスを提供するリンクトインが2018年に実施した調査の結果からも明らかです。そして従業員に意欲を与え承認欲求を満たすのは、経営者であり管理職の言動から見える強いリーダーシップと言えます。

帰属意識ではなく、従業員エンゲージメント

「確かに、旧来の終身雇用制度が崩壊したことに伴い従業員の帰属意識の低下は著しい。」「雇用制度を改めれば、優秀な人材は辞めなくなるだろうか。」

その認識は誤りと言わざるを得ません。

帰属意識と従業員エンゲージメントは全く異なる概念です。

従業員エンゲージメントの重要性については、2020年9月に経済産業省がリリースした「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~」においても言及されています。この場で詳細に言及することは避けますが、従業員エンゲージメントは従業員が帰属意識のもと、労使関係を結んだ会社に一方的に奉仕する主従関係ではありません。従業員は会社の一員として意欲的に会社の成長に貢献し、会社は従業員の貢献に対して福利厚生、教育、待遇で応える。これこそが、これからの労働市場の主流を成す考え方です。

強いリーダーシップが求められている

従業員は、強いリーダーシップを示すことのできる経営者を望んでいます。そして経営者にこそ、自分の価値を認められたいと望んでいます。リテンションマネジメントを実施するにあたっては、経営者が自ら率先して取り組めるか否かが成否を左右するといっても過言ではありません。

・人事に対する評価を賃金やポストによって具体、可視化する

・自由闊達に意見を言える風土

・新しいアイディアを出すことが評価される社風

・キャリアチェンジやジョブローテーションで、常に刺激を受けながら成長できる仕組み

近頃ではSNS等により、企業の代表自らがビジョンを発信する傾向が強くなっています。代表者や上司の背中を見て人材が育つ時代は終焉を迎えつつあります。これからは積極的に声を上げアピールしなければ、存在すら認められないでしょう。同様に企業のビジョンや理念も、従業員に対して積極的に発信し共有することが重要です。

さらに、横のつながりだけでなく縦のつながりの構築も必要です。経営者や上司、人事担当者と関係を構築できることは従業員の自尊心を育み承認欲求を満たします。ひいては自分も自社の構成要因でありチームの一員であると自発的に感じることができるようになり、退職を思いとどまるきっかけとなるでしょう。

・ 経営に対する熱い思いを従業員と「共有」し「共感」を得る

・横のみならず縦のつながりを構築して、従業員の承認欲求を満たす

ネガティブなフィードバックが従業員の心を折る

強いリーダーシップという言葉から、厳しい言葉で従業員を鼓舞するシーンをイメージした人も少なくないでしょう。しかしこの行動が優秀な従業員の自尊心を傷つけ、自分は認められていないと思わせる原因の一つです。

従業員に期待する思いから経営者や管理職が厳しい言葉をかけることは多くの場合において逆効果です。批判的な厳しいフィードバックという事実だけを受け止めた従業員は「自分は評価されていない」と捉えます。

労働基準法や労働組合法をはじめ、男女雇用機会均等法、最低賃金法といった様々な法律が整備され、また広く知られるようになる中で、従業員の価値観にも大きな変容が見られます。

先の項で帰属意識と従業員エンゲージメントの違いに言及したように、労使関係はもはや主従関係ではありません。経営者や管理職に対してリーダーシップ求めることも、自身の能力や貢献に対する評価を求めることも、経営者と従業員が対等な立場であるという認識が前提にあるからこその要求なのです。この価値観の変容に対する理解なしに、リテンションマネジメントの成功はあり得ません。

優秀な人材の退職に伴う3つの損失

優秀な人材を失うことで会社が被る損失を財務的損失、知識の損失、心理的損失の3つの観点に分類し、詳しくみていきます。

財務的損失

採用コスト・求人媒体に掲載する費用・面談に要した面接官の人件費・入社手続きに要した人材の人件費・後任の採用に要する費用
教育コスト・社員教育に要した費用
退職手続きのコスト・退職手続きを行う人材の人件費
退職金・会社規定の退職金

社員一人当たりにどれほどの費用が発生するか、月収30万円の30代男性を正社員で雇用したと仮定し試算したものが以下です。

・月収30万円(基本給27万円)

・賞与4ヵ月

給与30万円×12ヵ月360万円
賞与27万円×4ヵ月108万円
健康保険料14,805円(標準報酬月額30万円に対する保険料)×12ヵ月約18万円
厚生年金保険料27,450円(標準報酬月額30万円に対する保険料は)×12ヵ月約33万円
合計約519万円

この金額に加えて、労災保険料、雇用保険料、退職金の積み立て、備品使用に伴う経費が計上されます。これだけの先行投資をして育成した人材が定着しなければ、企業にとって財務的損失はあまりに甚大です。
(標準報酬月額参照:令和2年度保険料額表(令和2年9月分から)(東京都)(全国健康保険協会)

知的損失

従業員の知識は、企業にとっても重要な財産です。業務そのものの引き継ぎはできても、個々の人材が学び得た知識の全てを引き継ぐことはほぼ不可能と言ってよいでしょう。

また取引先企業とのやりとりで得た情報や知識の全てを、漏れなく共有することは容易ではありません。相手先企業と密に関係を築いた担当者であればなおさら、退職に伴い新たな関係性を築きあげる必要に迫られますから、更なる損失と言えるでしょう。

心理的損失

優秀な人材の退職に伴う損失を、心理的観点でもみていきましょう。

社内で一人の退職者が出ると社内全体の士気が下がり、退職の連鎖が発生する恐れがあります。

また退職に伴う業務分担の再編や後任の育成により業務の生産性はおきく落ち込むため、一人当たりの負担が増大することは避けられません。社内のモチベーションはさらに低下する負の連鎖が発生します。

心理的損失は社外にも波及します。

厚生労働省の定める青少年の雇用の促進等に関する法律(若者雇用促進法)により、新卒者を採用した企業には、直近3年間の新卒者の離職率を公表することが義務づけられています。離職者が多ければ、企業の体質を疑問視されることは避けられません。

また最近ではSNSや転職サイトのクチコミ等の広まりには目を見張るものがあります。万が一退職者が企業に対するネガティブな投稿を書き込むことで、ネガティブな企業イメージはあっという間に拡散されることでしょう。今後の人事採用にも悪影響を及ぼします。
(参考:青少年の雇用の促進等に関する法律(若者雇用促進法)について(厚生労働省)

リテンションマネジメントの成功事例

厚生労働省が発行した、若者が定着する職場作り事例集から、3つの成功事例を紹介します。

大東建託パートナーズ株式会社の事例

大東建託グループの不動産管理会社である大東建託パートナーズ株式会社では、有給休暇の取得率が低いことをきっかけに働き方改革に取り組みました。

<実施前の実績>

  • 2017年6月の有給休暇の取得率 19.8%
  • 2016年度のカムバック制度(ライフイベントにより退職した社員の再雇用)利用者 2人

<具体的な施策>

  • 勤怠システムを変更
  • 各種制度の周知徹底

<実施後の成果>

  • 2017年11月の有給休暇の取得率 37.2%
  • 2017年度のカムバック制度利用者 6人

制度導入に伴い社員満足度調査を行ったところ、各種社内制度に対する認知度の著しい向上が見られました。

また勤務地限定制度の説明を新規・中途採用の説明会実施したところ、この制度があるので入社を決めたという社員もおり、一定の評価を得たことが推測されます。

企業が用意したシステムを従業員に周知することで、社員満足度を高めながら採用社数を増やすことに成功した事例です。

株式会社ホットランドの事例

たこ焼き専門店「築地銀だこ」が主力の飲食チェーン、株式会社ホットランドでは、店舗マネジメント職の不足が長きに渡る課題でした。その背景にあるのは、出店のペースに人材確保が追いついていないこと。また、店長に対する教育研修やフォロー体制が追いついていないことでした。

<実施前の実績>

  • 2016年度新入社員の1年以内の退職率者数   17人中5人  

<具体的な施策>

  • 出店計画に基づいた採用計画の策定
  • 業務上の苦労などを新卒採用説明会で公表
  • 新卒採用枠の不足を中途採用で充当
  • 人事部長、新入社員教育担当者による新入社員への面談・フォロー
  • 離職要因把握のため、コンサルタントによる店長へのヒアリングを実施

<実施後の成果>

  •   2017年度新入社員の1年以内の退職率者数   15人中1人

新入社員の離職低下については、同期を集めた集合研修や3年目まで手厚いフォローを行う計画が功を奏しました。今後も従業員の満足度調査を1〜2年単位で実施し、組織全体でPDCAサイクルの制度を上げるよう努める方針を固めています。

スフィンクス株式会社(伸栄学習会)

千葉県浦安市で最も歴史のある学習塾の一つであるスフィンクス株式会社(伸栄学習会)は、ハローワーク等の求人広告媒体を活用してなお人材確保が難しい状況に苦しんでいました。また講師となった従業員の定着させ育成することにも大きな課題があり、対策としてメンター制度を導入します。メンターは上司とは別のポストです。経験の浅い講師の業務全般のサポート、および心理的な拠り所の役割を果たしました。

<実施前の様子>

  • 人材確保がスムーズにいかず策に窮していた

<具体的な施策>

  • メンター制度の導入

<実施後の変化>

  • 社内のコミニケーションがスムーズになり、信頼関係が生まれ、従業員同士の壁が低くなった

メンターとの個別面談の中で日頃口にできない不安や不満を共有することでモチベーションが上がり、信頼関係の構築にも成功した事例です。
(参考:若者が定着する職場作り事例集(厚生労働省) )

まとめ

優秀な人材が退職する背景に、満たされない承認欲求があるという事実は意外だったのではないでしょうか。終身雇用の崩壊と共に新たな価値観が主流となっています。そこでは、先輩を見て学ぶ、下積み生活に耐え忍ぶ、といった働き方はもはや美徳ではありません。避けるべき苦痛にすぎないのです。

優秀な人材ほど自分を評価してくれる魅力的な企業を求めて臆することなく挑戦するでしょう。魅力的な企業に優秀な人材が集中し、そうでない企業からは人材の流出が止まらない。今後その流れはより一層強まることが予測されます。

リテンションマネジメントは一朝一夕で実現できるものではありません。この記事を、自社の人事マネジメントのあり方を再考する契機とするのはいかがでしょうか。

一人で悩みを抱え込んでいる経営者・人事担当者へ

リテンションマネジメントが重要なことは理解できた。しかし日々の膨大な業務に追われており、リテンションマネジメントについてじっくり検討するゆとりがない。

それでも解決策はあります。リテンションマネジメントを熟知したプロをパートナーにすることです。

社内の体制を内部から客観視することは決して容易なことではありません。しかし人事採用に関する知識がある社外の専門家ならば、より広い視野を持って課題を発見し、効率的にリテンションマネジメントを進める方法を提案できるでしょう。

経営者には経営者の、人事担当者には人事担当者の専門領域があります。リテンションマネジメントについてはリテンションマネジメントの専門家を頼れるパートナーとして迎え、負担の軽減と社内環境の改善を両立させませんか。経営者は孤独。だからこそ頼れるパートナーが必要です。まずは一度、人知れず抱えている悩みをお聞かせください。

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